8月28日午前五時(イスラエル時間)、日本からのお昼のトップニュースは現地時間午前二時、イスラエル軍が戦車を導入して、パレステイナ暫定自治区ベトレヘムに進攻したとのニュースでした。正確には、聖誕教会のある旧市街ではなく、ベッサフル(天使が羊飼いたちに救い主の誕生を告げ、天には栄光、地には平和と告げた羊飼いの野)とベッジャラ(キリスト信者の町)の高台を占拠したのです。ベッジャラ進攻についてはイスラエルは以前から警告していました。それは、ベッジャラからイスラエル側ジロの住宅地に銃撃を繰り返しているからです。
エルサレム繁華街での神風テロの直後、イスラエル軍は報復として、ラマッラ警察本部を爆撃し、また、ジェニンへ戦車で進攻し、そこの警察本部を破壊しました。内外のアラブ人が報復を叫ぶなか、ベトレヘムの活動家がベッジャラからジロに対して銃撃しました。これに対して、イスラエル軍がベッジャラへ進攻する直前、諸外国からの自制要請とアラファトの銃撃中止命令で、進攻を一時停止していました。しかし、27日、ラマッラでパレステイナ人指導者が殺害されたことから、アラファトの自制命令に背いて、パレステイナ活動家がジロに対して銃撃しました。これがイスラエル軍に進攻の機会を与えてしまったのです。
日本ばかりではありませんが、世界のメデイアはイスラエルの過剰攻撃を非難しています。この傾向の是非はとにかくとして、イスラエルの立場を考えてみました。今回のIntifadaが起きてまもなく、パレステイナ活動家はベジャッラの高台の建物からジロの住宅地に銃撃を始めました。これに対して、イスラエルも小火器で応戦していました。これが、次第に、物の被害ばかりではなく、負傷者が出るようになり、小火器から戦車砲、ミサイルでの反撃となりました。
初期の撃ち合いのころ、なぜ、イスラエルは銃撃者を逮捕しないのだろうと考えていました。まもなく気付きました。暫定自治区内ではイスラエルは犯人逮捕の警察行動が出来ないのです。このことを承知して、パレステイナ活動家は銃撃しているのです。彼らはイスラエルをこの地から追出し、パレステイナを開放するまで闘争を続けると言っています。27日、ラマッラの事務所で勤務中殺害されたムスタファ(AbuAliMustafa)はこのグループの指導者でした(PFLP反主流)。他方、アラファトは武力闘争を止めて、エジプト、ヨルダンに倣って、イスラエルとの共存を選びました(PLO主流)。
パレステイナはアメリカ前大統領クリントンの調停でイスラエル前首相バラクと和平合意をしておくべきだったのです。パレステイナはイスラエルからの最大限の譲歩を物にすることが出来ませんでした。2000年前、オリーブ山から都を眺めて、「もし、きょう、おまえもまた平和をもたらす道がなんであるかを知ってさえいたんらば…(ルカ19.41-44)」と泣きながら、仰せになった救い主イエスのことばがよみがえってきます。
そもそも、イスラエルにとってのオスロ和平合意は、際限なく続くアラブ世界、とりわけパレスチナ住民との流血の惨事を終わらせるためにパレステイナ住民の国家を認め、イスラエルとの平和共存を求めてのことでした。しかし、現在の状況から見て、パレステイナ国家を認め、パレステイナ住民との平和共存は不可能です。
例えば、水資源の分割、ユダヤ教、イスラム教、キリスト教の聖地エルサレムの帰属問題、入植地の問題、難民帰還の問題、国境の策定等の問題について、イスラエルもパレステイナも市民、住民の意見がひとつになっていません。双方に、共存ではなく、排他的な一国支配を主張して譲らない強固派がいます。イスラエル政府とパレステイナ暫定政府との交渉で問題を解決するためには、イスラエルはイスラエルで、パレステイナはパレステイナで平和共存の住民的同意を確立しておかなければならないのです。
しかし、現実は、イスラエルで、バラク前首相が国連の決議を受け入れ、占領していた南レバノンから撤退し、パレステイナとの和平実現のポーズを取り、最後は、エルサレム分割まで同意し、譲歩しました。一方、パレステイナでは、主流派がこの和平実現に後一歩と近づいた時、反主流派がイスラエルの南レバノンからの撤退をヒスボラの勝利、イスラエルの敗北と見て、武力闘争で占領地を開放し、パレステイナからユダヤ人を駆逐する対イスラエル抗戦の原点に戻った闘争を始めてしまいました。これは、イスラムパレステイナ人の本心です。そして、これが、また、和平実現不可能の根拠です。
30日早朝、イスラエル軍はベッジャラから撤退しました。しかし、ジロへの銃撃があれば、再度、占拠の構えです。
アラブキリスト信者は、出来るならばベトレヘムを逃げ出したいと言います。
ベトレヘムは死の町になったと聞きました。
(ジロについてはフランシスコ会ホームページ「エルサレム通信」2000年「土地を奪われた(続)」でも取り上げました。)
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