「危険情報」聞く人、聞かない人

月16日

アンジェロ 春山 勝美 神父
Fr.Angelo Haruyama Katsumi, OFM
haruyama@netvision.net.il

ただいま、NHKで人質解放を聞いたので,ALJEERAでも確かめています。誘拐された本人のご苦労やご家族の安堵に思いを寄せています。それにつけても、また、今日15日、新たに二人が誘拐されたとのニュースがありました。それで、これまで差し控えていたエルサレム通信をあえて更新します。

4月7日、イラクで日本人3人が誘拐され、誘拐犯からは自衛隊のイラク撤退がなければ人質を殺すと脅迫されました。一時は解放するとのニュースがありましたがまだ実現していません。ご家族の心痛のほどが推し量られ、人質の速やかな解放を願わずにはいられません。そして、この問題は日がたつにつれ、単なる「誘拐犯罪」であると同時に、「自衛隊派遣・撤退と言う政治問題」にもなってきました。

イスラエル滞在がまもなく8年になります。この間、ほとんど、日本外務省の出す「危険情報」から解放されたことがありません。昨年3月、イラク戦争直前、「退避勧告」を受けました。日本政府は在留邦人保護が出来なくなると判断したからだと理解しました。しかし、日本政府の「退避勧告」をありがたく受けましたが、およそ700年間、当地で「聖地」を守り通したフランシスコ会の一人として在留することを決め、その旨、大使館に伝えました。

現在は、一ランク下の「渡航の延期をおすすめします」となっています。4月上旬、友人はイスラエル旅行を予定していました。頼まれた私は巡礼コースを考え、宿を予約し、心待ちしていました。しかし、直前、ヤッシン師暗殺があり、旅行中止との連絡を受けました。

「渡航の延期をおすすめします」が出ると大手旅行代理店はツアーを取り止めます。それでも、2月、3月、卒業旅行とかで一人旅でキリスト大聖堂を訪れる若者がいました。出会う彼らに「危険情報」のことを尋ねると、ほとんどは「何のことですか」と聞き返えされました。ご存知のように、当地はイスラエルとパレステイナとに区別されます。イスラエルとはイスラエル本土とエルサレムを含む西岸占領地のことで、パレステイナとはナブルス、ラマッラ、エリコ、ベトレヘム、ヘブロンを含む西岸とガザです。「危険情報」も、同じ「渡航の延期をおすすめします」であっても違いがあります。パレステイナ西岸には「事情の許す方は安全な場所へ移動することをおすすめします」と付け加えられています。一言で言えば、イスラエルには行かないように、パレステイナにも行かないように、そしてさらに、滞在者は災難に巻き込まれないように安全のところに避難してくださいと言うことです。

そして最近の情報では、パレステイナ西岸とガザに行く場合はイスラエルの文書による許可を受けるようにとありました。理由は、イスラエル警察は日本人であろうと国家安全を脅かす者と見れば、逮捕・拘禁するからです。こんな訳で、ベトレヘムへは行けなくなったと気をもんでいました。しかし、かの青年たちは、「ラマッラに行ってきた。」、「ガザに行ってきた。」と言いました。一昨年(2002年)のことですが、ベトレヘム生誕教会がパレステイナ人過激派に占拠され、イスラエル軍が包囲していた時のことです。イスラエル軍は住民に対して外出禁止令を出していました。これは、屋外で動くものがあれば発砲するとの警告です。このような状況のベトレヘムに日本人男女二人が広場に現れました。BBC関係者が彼らを見つけ、イスラエル軍に発砲しないように叫びつつ、救助しました。BBCが世界に発信したのでご記憶のことと思います。彼らは動物のように迷い込んだと言えるでしょうが、イラクで誘拐された人たちは危険を承知で出向いたと報道されています。大使館(外務省)はイスラエルで邦人が事故や事件に遭うと仕事が増えるので、必要以上に危険度を上げて脅していると陰口をたたいています。しかし、今回、イラクでの人質事件を考えると「自己責任」の重さを痛感します。

報道によれば、誘拐された人たちはイラク市民のよき友人として命を惜しまず働いている人たちだとのことです。しかし、誘拐犯にとっては、彼らは自衛隊を撤退させるようにと日本を脅す「人質」でしかありません。アメリカ指導のイラク復興の国際協力から日本を脱落させるよう「市民感情」に揺さぶりを駆けています。自衛隊派遣に反対していた人たちにとっては、それ見たことかと撤退運動の弾みとなったようです。思い出すのですが、自衛隊派遣が問題になった時、イラクの現状では「自己完結の自衛隊」でなければ人道支援が出来ないとの政府答弁がありました。善意の市民活動家が人質として利用される現実を見る時、この政府見解が当を得たものでした。

人質が無事解放されたので、ご家族の方、支援者にあえて言わせてもらいます。「退避勧告」とは日本政府が「邦人保護が出来ない」と宣言していることです。これを無視する者には事件対応について日本政府を非難する資格はありません。自分の非を認めて、救助をお願いすべきです。今回の場合は政府の政策変更が強要されました。日本が脅迫されたのです。世界にはこのようなことをする人たちがいるのです。イラクにおいてと同じく、パレステイナにおいても、自己の信念を徹するときは、今回の事件を参考にし、自己責任が何であるかをわきまえて、実行なさるようお願いします。