蛇の生殺し

8月12日

アンジェロ 春山 勝美 神父
Fr.Angelo Haruyama Katsumi, OFM
haruyama@netvision.net.il

7月30日未明(日曜日)、レバノン南部カナの村で起きた惨事のニュースは、またたく間に、全世界に広がりました。私が気付いたのは昼前でした。メールのチェックをし、レバノンの情勢を知ろうとBBCサイトを開いたら、惨事を伝えていました。早速テレビに切り替えました。CNN、BBCWORD、EURONEWSは実況で伝えていました。この時点では、日本の新聞、テレビは扱っていませんでした。

その後、テレビニュース、解説、新聞の社説等ではイスラエルの非人道的な行為を非難し、即時停戦をと、呼びかけています。7月12日、小泉首相歓迎会の席で、ヒスボラがイスラエル国境を越境し、イスラエル兵二人を拉致したことを知りました。首相は国家の一大事のさなか、イスラエル政府の歓待を感謝していました。そして、ガザでのイスラエル兵拉致問題に加え、ヒスボラからのロケット、ミサイル攻撃でイスラエル北部住民に死傷者がで、イスラエル軍のレバノン海上封鎖、空爆となりました。

今回、なぜか、「蛇の生殺し」との言葉が突然、思い浮かんだのです。広辞苑によれば、「『生殺し』とは、半死半生の状態にして放置すること。物事にある程度まで手をつけながら決着はつけずにおくこと」とあります。イスラエルは、2000年、レバノン南部占領を止め、撤退しました。国連はレバノン暫定軍を送り、国境監視を図るはずでした。しかし、暫定軍が配置に就く前に、ヒスボラが実効支配してしまいました。このヒスボラはハマスと同じく、「国家としてのイスラエル」存在を認めていません。武力によるパレステイナ解放を叫んでいます。これまでも、イスラエル兵、民間人の拉致を繰り返しましたし、イスラエル北部へのロケット弾攻撃を止めませんでした。そして、イスラエル軍のレバノン爆撃は激しさを増し、地上軍の越境となりました。

カナの惨事が起きる数日前と記憶しています。イスラエル軍が、レバノン南部の住民に北部へ退避するように呼びかけたビラを撒いていると、のニュースがありました。退避できる人は、既に、退避していたのかもしれません。犠牲者たちは退避する「すべ」がなく、ただ、留まっていたのかも知れません。あるいは、「人間のたて」として利用されていたのかも知れません。

これまで、私が知っている、テロリストがしていたことです。ベトレヘムのキリスト信者が住む民家から向かいのイスラエル住民の住居に銃撃し、これがイスラエル軍のベトレヘム侵攻の口実となりました。同じくベトレヘムのカトリックシスターの経営する病院が最重要テロリスト容疑者をかくまい、発見され、逮捕されました。救急車がテロリストを搬送しているところを検問所で発見されています。また、彼らが救急車で武器を運んだりしていたことはイスラエル社会で良く知られています。

国連レバノン暫定軍監視施設が攻撃され、死傷者が出ました。イスラエルの無差別攻撃の例に挙がっています。ところが、この攻撃で犠牲になったカナダ兵は元上官にメールでヒスボラの出入りがあるので、イスラエルの攻撃目標にされる心配があると伝えていました。戦闘能力では格段の差がある彼らは、自爆テロに見られるように、自己犠牲、住民犠牲、特に、子供や女性の非戦闘員を避難させることなく、犠牲者に仕立て、国際社会の同情を買い、対イスラエル交渉を有利にしようとしているのではないかと、疑いたくなります。

レバノンの、空爆による住居、道路、学校、病院、交通・通信施設の破壊、負傷者の痛ましさ、死者の埋葬、難民の続出は、ヒスボラのロケット攻撃で被ったイスラエル側の死傷者、損害をはるかに越えています。これは確かです。それで、人々はイスラエルの軍事作戦を即時停止しろと、叫んでいます。8月1日、東京のイスラエル大使館前でも、デモがあり、即時停戦を呼びかけたと、のニュースがありました。

私見ですが、現状、まだ、ヒスボラがイスラエル攻撃能力を温存している段階での停戦では、近いうち、また、このような悲惨な戦禍が繰り返されます。レバノンだけ取っても、このことの繰り返しでした。これを「蛇の生殺し」と言いたかったのです。

問題の核心はここにあります。アラブ世界全体が、また、イランが「国家としてのイスラエル」を認めていないからです。1948年、国連の承認で誕生したイスラエルを承認せず、武力で駆逐し、パレステイナ国家を建設しようとしています。

他方、イスラエルは、ナチス迫害をヨーロッパ社会が阻止できなかったとの、忘れることの出来ない体験があります。ここから、自分たちの国は自分たちで護るとの共通意識が生まれました。4回のアラブ社会との戦争に打ち勝ち、祖国イスラエルを作り上げ、護り、発展させてきました。

この現実に、あなたは、どう取り組みますか。私は、アラブ社会がイスラエルを承認するよう願っています。それは、現段階で、パレステイナ人には自力で国を作れないからです。一国家であるならば自立した経済を確立しなければなりません。イスラエルは壁でパレステイナを分離しても自立できますが、パレステイナはイスラエルとの共存無では存続不可能です。国際社会はこの現実を真摯の目で見、パレステイナ人が平和に生活できるイスラエル・パレステイナ共同体建設プロセスを見出して欲しいと願っています。

世界が取り組まなければならないことは、アラブ社会にイスラエルを承認させることのはずです。そして、日本もしなければならないことがあります。61年前、国民は日本を取り巻く状況を何も知らされていませんでした。海上は封鎖され、連日連夜、空襲にさらされ、東京から始まり大都市、地方都市に至るまで焼け野原となりながらも、神国日本は決して負けない、神風が吹き、帝国日本はかならず勝利すると信じ込まされていました。そして、竹やりで米軍を迎え撃つと意気込んでいました。8月になり、広島、長崎に原爆が投下され、満州ではソ連の参戦があり、15日、ポツダム宣言無条件受け入れで、敗戦となりました。

パレステイナの人たち、目覚めてください。だまされないでください。イスラエルを抹殺することは不可能です。むしろ、イスラエルとの共存を選んでください。日本は戦争に負けたことで、これまでの「教え込まれた日本観」を打破することが出来ました。アメリカの占領政策の下、廃墟から立ち上がったのです。日本のこの戦争体験とその後の発展をパレステイナの人たちに伝えるべきではないのでしょうか。

それでも、パレステイナの人たちがイスラエル殲滅を叫び続けるのなら、国際社会は、たとえ、人道援助であってもすべきではないと思います。イスラエル人を駆逐しようとしている人たちに援助することは、イスラエルに対抗する力を増強していくということで、また、イスラエルを挑発します。そして、イスラエルの報復でパレステイナ人は「生殺し」にされるのです。

−−補 足−−

BBCがベイルート在住のカメラマンを解雇したとのニュースがありました。報道写真に写真補修ソフトを使ったとの理由でした。Jerusalem Postから送られてきたメールを開き、驚きました。もし興味おありでしたら、開いてみてください。

http://www.aish.com/movies/JP/PhotoFraud.asp

----- Original Message -----  
From: The Jerusalem Post
To: Katsumi Haruyama
Sent: Saturday, August 12, 2006 1:33 AM
Subject: Photo fraud in Lebanon ・a new movie
Photo Fraud in Lebanon
Aish.com's new movie.
http://www.aish.com/movies/JP/PhotoFraud.asp


<ニュース写真を加工した情報操作カメラマン解雇!>
ニューヨークタイムズ(New York Times)は2006年8月9日に、中東に拠点を置くレバノンの写真家Adnan HajjがTechnorati Webサイトで最も多く検索され、YouTubeで最も多く見られたビデオの1つであった写真は、インターネットの迅速な正義のおかげで告訴されて、裁かれ、不適切に彼がロイターに提供した写真を変更したことに対して、有罪と宣告されたと報告した。
http://www.jiten.com/index.php?itemid=4255&catid=4