「聖母なし」の聖霊降臨図

10月10日

アンジェロ 春山 勝美 神父
Fr.Angelo Haruyama Katsumi, OFM
haruyama@netvision.net.il

キプロスのギリシャ聖堂を巡って気付いたことです。
聖霊降臨図に聖母マリアの姿がないのです。不思議に思い、聖堂内にいた修道士に尋ねたのですが、言葉が通じず、修道院売店の係りに、改めて、尋ねたところ、オーソドックス(正教)には「聖霊を受ける使徒たちの中心にマリア」がいるものと、「使徒たちだけのもの」との二つの流れがあるとの説明でした。その後、聖堂を巡りながら、この事実を確認しました。

写真1:カトリック聖堂そして、聖霊降臨についてあれこれ考え込んでしまいました。かの聖堂やほかの聖堂でも、キリスト昇天図では、聖母マリアを中心に使徒たちが天を仰ぎ、主の昇天を見送っています。これに対の聖霊降臨図では使徒たちだけなのです。典礼暦では主の復活後50日目のペンテコステに「聖霊の降臨」を祝います。

しかし、福音書では復活当日、復活したキリストは弟子たちに「息」を吹きかけ、「聖霊を受けなさい」と言い、弟子たちに「罪を許す権限」を与え、「遣わす」と命じています。神学的には「この日」に使徒たちは聖霊を受けたことになります。

では、聖霊降臨は何だったのでしょう。この日の記述では、聖霊を受けた弟子たちは「ナザレのイエス」が神からの「救い主」であることをエルサレムの住民、世界からの巡礼者に、あからさまに、宣教し、主の命令通り、全世界宣教の第一歩を踏み出しました。

「教会が聖霊降臨で始まる」と言うのは、一人ひとりが聖霊を受けるというよりは聖霊に写真2:天使の献香導かれる使徒団が形成され、教会の位階制度(hierachia)の基、神の民が形成されることを意味するのではないでしょうか。この点が強調されるのであれば、教会誕生のこの時期、聖母の不在は理解できるのですが。

しかしこのことで、聖母マリアが教会とのかかわりにおいて、カトリック教会より疎かにされているとは言えません。カトリック教会では「聖母マリア」が一般的な呼び名です。また、「無原罪の聖マリア」とか「被昇天の聖マリア」とか教義の側面からの呼び名と、「ルルドの聖母」のように出現地をつける場合があります。オーソドックス(正教)の聖母マリアのイコンには、どのイコンにも、「神の母」とあります。

イスタンブールのアヤ・ソフィアのアプセスに、御子を正面に抱き、右に大天使がブリエルのイコンがあります。(参照:エルサレム通信2005年12月15)。ここの大アプセスの左には大天使ミカエルが配されていたはずです。推測の基となったイコンを掲載できませんが、リマソール・カトリック聖堂内を参考になればとこの場に掲載します。
(写真1:カトリック聖堂)

これは「お告げ」、大天使聖ガブリエルの言葉を受けたマリアが「神の子」を受胎したことであり、また、黙示写真3:天使礼拝録の、生まれる子供を待ち構え、襲いかかる竜と戦う大天使聖ミカエル(黙示録12章)を思い起こさせます。受胎した子供は、神の受胎であり、その瞬間から神であり、天使たちが恐れ敬う永遠の神です。
(写真2&3:天使の献香;天使礼拝)

写真天使礼拝イコンの手前、左に大天使聖ガブリエル、右に聖マリアのイコンが見えます。このことからマリアに宿る「神」に対する献香と見たいです。大天使聖ミカエルは、黙示録から悪の力にさらされる、「誕生間もない教会」を護る神の力です。

右に大天使聖ガブリエル、左に大天使聖ミカエルを配することによって、聖マリアは神の受胎、誕生、成長、その死と復活によって宇宙の王となられた救い主イエス・キリストの母であり、そして、「キリストと一体である教会」の母でもあることをこれらのイコンは語りかけてきます。「神の母」、これはキリストの母マリアに対する最高の栄誉であり、キリストの母だけの、唯一の称号です。そして、これは、救い写真4:聖堂内部主イエス・キリストは、すべとの生物の原則に従い、男女の交わりによって生まれ、聖霊によって神化されたとのアリウス異端(ニケア公会議324年)に打ち勝った教会の信仰告白であり、さらに、100年後のネストリウス異端(エヘソ公会議431年)を退けた信者の信仰告白です。オーソオックス聖堂内イコンは装飾と言うよりは「聖画による信仰表現」であり、「視覚的教義解説」と見たいです。

補足:リマソールカトリック教会アプセスには聖母の左右に大天使聖ガブリエル、聖ミカエルが配されています。
(写真4:聖堂内部)