フランシスカン研究
前川登
アシジの聖フランシスコを創立者とする男子修道会フランシスコ会は、間もなく創立800周年(2009年)を記念しようとしている。聖フランシスコは、「もう一人のキリスト」と呼ばれる程、イエス・キリストの福音を文字通り生きようとした聖人である。最初、彼は修道会を創立しようとは毛頭思っていなかった。ただイエス・キリストの生涯にならい、無所有の生活をもってイエス・キリストの愛の福音を生きるために「世俗を出た」のである。ところが、次々と同志の者が彼のもとに集まり、その数が12人となったので、彼は正式に教会の認可を受けて、無所有、貞潔、従順の生活を送る修道会を創立し、これを「Ordo
Fratrum Minorum」(小さき兄弟たちの会)と称した。
フランシスコは、イエス・キリストの教えに従う「全くカトリック的で、全く使徒的な人」として、自らは皆に仕える者「Minister」となり、同志の者は皆「兄弟」であると宣言した。このような呼び名からしても、フランシスコ会がfFの階級をもって組織立てられた従来の修道会とは違う、兄弟的共同体であることが明らかである。フランシスコ会は福音の証の修道会であり、同時に福音宣教の修道会でもある。
フランシスコは、「祈りと敬度の精神」をもってすべてのことを行うように兄弟たちに諭した。肉体労働に従事する兄弟も、福音宣教に出かける兄弟も、そして学問・研究に携わる兄弟も、差別なく、「小さき兄弟たちの会」の兄弟として「祈りと敬度の精神」で、それぞれの与えられた奉仕に従事するよう諭したDこうしてフランシスコ会には、殉教した聖人、無学で謙遜な聖人、さらには博学で謙虚な聖人など、教会によって聖人または福音として認められた兄弟たちが輩出している。1983年に、ミュンヘン大学のデットロツフ教授等によって「東京ボナヴェントウラ研究所」が設立され、そのシンポジウムや講演、及び、「ボナヴェントウラ紀要」の出版活動などによって、主に聖ボナヴェントウラに関する研究論文が数多く発表され、フランシスコ会学派固有の学問・研究が日本においても紹介され始めた。ところが、1996年以来、メンバーの高齢化などにより研究所の活動は休止状態となった。
しかしながら、一旦蒔かれたフランシスカンの種は決して枯渇することはなく、再び有志の人たちが新たに結束して、研究会や講演会などの活動を細々ながらも開始した。そして、新たな若手研究者たちが集い、ようやくその蓄積が実り、この度、伝統あるフランシスカン学派の宝庫の扉が再び開かれることになった。こうして「フランシスカン思想研究会」と「フランシスカン霊性研究会」とが統合され、「東京フランシスカン研究所」が設立され、研究誌『フランシスカン研究』が発行されることになったのである。
この新たな運動のために、聖アントニオ神学院教授・ステファノ福田誠二師(OFM)が全力を傾注して奉仕している。同師は、ドイツでデットロツフ教授に師事し、長年、福者ヨハネス・ドゥンス・スコトウスの研究に没頭し、博士論文を発表して学位を取得した新進気鋭のフランシスカン学徒である。彼は福音ヨハネス・ドゥンス・スコトウスの教説に強く魅せられて、帰国後、直ちに論文「ヨハネス・ドゥンス・スコトクスのペルソナ神学」を出版し、反響を呼んでいる。日本では、福者ヨハネス・ドゥンス・スコトウスは余り知られていない、隠れた「Doctorsubtilis」(精妙博士)である。福田師は、福音ヨハネス・ドゥンス・スコトウスの学問的業績を日本の思想界に紹介する使命を感じて、種々の学会や研究会、及び講演会などで精力的に研究論文を発表している。慶応義塾大学名誉教授坂口昂吉氏は、福田師の熱意に動かされ、同志の学徒に呼びかけて、普遍的なフランシスカン精神の普及のために自己の研究成果を惜しみなく提供しておられる。
聖フランシスコの小さき兄弟なる学徒たちが、各時代を通して築きあげてきた福音的、学問的遺産を日本の皆様と分かち合うことができれば真に幸いである。本書の出版のために貴重な論文、講演などの原稿を提供して卜さノ)た諸先生方に心から謝意を表明し、今後とも各分野でのご協力をお願い申し上げたい。とりわけ、この度、『フランシスカン研究』出版の労をとって頂いたコンベンツアル・フランシスコ会の「聖母の騎士社」の皆さんには心からの兄弟的挨拶と感謝を申しLげる次第である。
現在日本には、「小さき兄弟たちの会」フランシスコ会、コンベンツアル・フランシスコ会、カプチン・フランシスコ会、そして、在世フランシスコ会、さらに、アトメントのフランシスコ会とフランシスコ会系統の12の女子修道会が存在し、聖フランシスコを師父と仰いで、福音生活と宣教に従事している。教会の内と外とを問わず、アシジの聖フランシスコを愛する人たちは多い。今回の『フランシスカン研究』の出版が、日本のフランシスカン全家族をはじめフランシスコの価値観を生きようとする全ての人にとって、祈りと敬虎に基づく学問の分野においても、福音の宣教の分野においても、より緊密な一致協力のための起爆剤となることを念願して止まない。
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